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A02班研究論文が「Science of the Total Environment」に掲載

Posted: 2024.01.05

要旨

最近、地下水が沿岸海域に栄養物質を河川水に匹敵する量で輸送していることがわかりつつあります。しかし、海域に流れ込む地下水の成分は、陸地から流れてくる淡水成分だけでなく、海水が海底の帯水層に入り込んでから再び流出する(再循環する)塩水成分も含まれています。さらに、これらの地下水は浅い海域だけでなく、直接的に評価が難しい沖合の深部でも流れ出ています。これらの成分を同時に正確に評価するのは難しく、地下水流入の量を評価する際にはまだ解決すべき課題が残っています。このため、今回の研究では、国内で最も海底湧水の研究が進められている小浜湾をモデルサイトに選び、2種類の放射性物質を利用して地下水の成分と流出箇所(浅海域 vs 沖合)を同時に評価しました。その結果、小浜湾の地下水流出に関する新しい知見を得るだけでなく、世界中の沿岸海域において、地下水の流出がこれまで考えられていたよりも大きな影響を与えていることが示されました。 

この研究成果は、環境科学分野の国際学術誌「Science of the Total Environment」に掲載されました。

解説文

 沿岸海域の高い生物生産性は河川や外海から輸送される栄養物質によって維持されると考えられています。近年、地下水による栄養塩輸送量が河川に匹敵しており、主要な栄養塩供給源の一つであることが明らかとなりつつあります。沿岸海域の豊かな生物生産性がもたらされる要因を理解する上で、地下水を介した沿岸海域への栄養塩輸送量や他の栄養塩供給源に対する影響度合いなどを評価することは重要であり,国内外で研究が進められています.

沿岸海域へ流出する地下水は陸域で涵養した淡水成分の地下水(淡水性地下水)と海水が海底の帯水層に入り込んでから再び流出する(再循環する)塩水成分(再循環性地下水)も存在しています。また、地下水の流出箇所は面的に分布しており、浅海域だけでなく沖合域にも流出しています。研究の対象とする海域の大きさによって地下水流出量や地下水成分、他の栄養塩起源に対する影響度合いなど異なることが予想されますが、これまでの研究では生態系ごとの違い(河口、砂浜、内湾など)に着目されており、評価する空間スケールの違いによる効果はほとんど評価されていませんでした。

 そこで、本研究では国内で最も海底湧水の研究が進められている福井県小浜湾をモデルサイトとして、地下水成分を区別した上で浅海域(水深10 m以浅)と小浜湾全域(内湾スケール)への地下水流入量および栄養塩輸送量を評価しました。小浜湾内への地下水流入量を見積もったところ、流入している地下水の約90%は塩水成分の地下水であり、全地下水流入量の約85%は水深10 mより深い沖合域(海域面積の61%)で生じていました。また、再循環性地下水の86%、淡水性地下水の97%は沖合域で流入していました。小浜湾沖合域への卓越する淡水性地下水流出は、小浜平野の地下に存在する被圧地下水によるものと考えられます。

陸域からの物質輸送に対する地下水流入の影響や評価する空間スケールによる違いを調べるために、地下水と河川による水・栄養塩輸送量の比(地下水/河川)を空間スケール間で比較しました(図1)。浅海域スケールおよび内湾スケールへの全地下水流入量(淡水+塩水)は河川水のそれぞれ約2倍および10倍を示し、評価する空間スケールに関わらず河川水の輸送量を上回ること、浅海域スケールに対して内湾スケールで地下水の割合が大きいことが認められました(図1)。同様に、地下水による栄養物質(窒素・リン・ケイ素)の輸送量を見積もったところ、浅海域スケールでは河川水の0.5~3倍、内湾スケールでは河川水の4~19倍に達しており、より大きな空間スケールにおいて河川に対する地下水の重要性が大きくなることが示されました。

小浜湾で得られた結果の検証および、より一般化した結果を得るために、世界中の沿岸海域(浅海域または内湾)で報告されているデータ(53海域)を取りまとめ、河川に対する地下水の栄養塩輸送量や対象海域の面積、単位面積当たりの地下水流入量の比較を行いました(図2)。その結果、浅海域スケールよりも内湾スケールで河川に対する地下水の栄養塩輸送量比が高いことが認められました。これは小浜湾で得られた結果と同様に、大きな空間スケールで地下水の重要性が増大することを示唆するものです。また、単位面積当たりの地下水流入量に違いが認められなかったことから、沖合域においても浅海域と変わらない安定した地下水流入現象が生じていることが示唆されました。結果として、より大きな空間スケールでは河川に対して面的に流入する地下水の重要性が大きくなることが考えられました(図3)。これらの結果は、これまでの認識よりも地下水の影響が広範囲に及んでいることを意味しており、沿岸海域の生物生産を支える栄養塩供給機構を明らかにする上で、浅海域だけでなく、より沖合海域においても地下水からの栄養塩供給を考慮する必要性を提示するものと期待されます。

論文情報

タイトル:Comparing nearshore and embayment scale assessments of submarine groundwater discharge: Significance of offshore groundwater discharge as a nutrient pathway

掲載雑誌名:Science of The Total Environment

著者名:中島 壽視(福井県立大学 大学院生)・倉賀野 真央(福井県立大学 大学院生)・山田 誠(龍谷大学 准教授)・杉本 亮(福井県立大学 教授)

  • 現所属:東京大学大気海洋研究所 学振特別研究員

公開URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969723066950

図1.小浜湾への河川水と地下水(淡水+塩水)による水と栄養物質(窒素・リン・ケイ素)の流入量の比。赤は浅海域(水深10m以浅のみ)、青は内湾スケール(浅海域+沖合)を意味する。

図2.小浜湾の研究成果と世界53海域のデータに基づく、河川水と地下水(淡水+塩水)による栄養物質(窒素・リン・ケイ素)の流入量の比、対象海域の面積、および単位面積当たりの地下水流入量(d)。

図3.小浜湾の研究成果と世界53海域のデータの再解析結果から評価される、地下水流入の概念図。地下水流入量は「海域面積」×「単位面積当たりの地下水流入量」