領域概要・計画班

領域概要

沿岸海洋は人間生活が大きく依存し、人間活動のために大きく変化しつつある沿岸海洋に関して、将来予測や影響評価のニーズが高まっています。しかし、沿岸海洋を満足に解像しない従来の気候変動シミュレーションや、従来の沿岸海洋学とそれに基づく沿岸海洋シミュレーションは、こうした現代的な沿岸海洋の課題に対応できていません。沿岸海洋の理解や利用に向けた研究は様々な形で行われてきましたが、現状でそれらは各論的であるため、沿岸海洋学を現代的な課題に対応させるためには、これらを統合して新たな沿岸海洋学を構築する必要があります。その統合的な沿岸海洋学を実現し、さらにグローバルな視点から沿岸海洋の将来予測や影響評価に適用できる手段は、数値モデリングをおいて他にありません。

沿岸海洋は一般に外洋と比べて生物生産性が高く、豊かな水産資源や生物多様性の場としての沿岸海洋を特徴づけています。その根本となる基礎生産(光合成活動)を支えるのは主に陸水(河川水・地下水)と外洋から供給される窒素・リン・ケイ素・鉄などを含む栄養物質です。これら栄養物質の供給は人間活動によって大きく変化しつつあり、陸域からの物質供給に関しては、地下水が河川と同等以上に寄与するという指摘が近年なされていますが、その実態や変化には未知の部分が大きく存在します。こうした沿岸海洋の物質動態に関して、陸域や外洋とのつながりの実態を把握し、将来変化を予測し今後新たな問題が顕在化した場合にその影響を迅速に評価できる学術基盤を作ることが喫緊の課題となっています。この課題を解決するためには、流動や水温を司る物理過程と物質の変質を司る生物地球化学過程を明らかにし、それらの統合を実現しなければなりません。

沿岸海洋の変化を把握しその将来を予測するためには、従来のように外洋を単なる外部境界条件として扱うのではなく、外洋の変化や外洋との相互作用を含む必要があります。すなわち、ミクロな視点でミクロな領域を扱っていた従来の沿岸海洋学を、ミクロな視点を維持しつつマクロな領域に展開することが肝要であり、それが既存の沿岸海洋学に対する変革や再編をもたらします。このコンセプトに基づく新たな沿岸海洋学をここでは「マクロ沿岸海洋学」と呼び、このマクロ沿岸海洋学を形成するための中心的手段として、陸域から外洋におよぶ物質動態の統合的シミュレーションシステムを構築します。
これにより、「沿岸海洋の生物生産を支える栄養物質供給において陸域と外洋のどちらが支配的か」という問いに包括的に答えを追求していきます。

計画班

A班

A01
沿岸 – 外洋間海水交換プロセス
代表者:東京大学・伊藤 幸彦

日本沿岸の河口から大陸棚における海水と溶存物質の拡散過程を解明し、そのフラックスを定量化する。

A02
沿栄養物質の陸水からの流入と外洋への移出
代表者:福井県立大学・杉本 亮

陸域から沿岸海洋への栄養物質の流入量および縁辺海への移出量を定量化するとともに、その支配プロセスを明らかにする。

A03
沿岸生態系による陸域起源栄養物質利用
代表者:水産資源研究所・黒田 寛

陸域と外洋を接続する包括的沿岸モデリングシステムを構築し。陸域から供給される淡水・土砂・栄養物質の輸送および変質・除去過程を解明する。

A04
シミュレーションシステム構築
代表者:東京大学・松村 義正

陸域と外洋を接続する包括的沿岸モデリングシステムを構築し。陸域から供給される淡水・土砂・栄養物質の輸送および変質・除去過程を解明する。

B班

B01
親潮・亜寒帯外洋域の栄養物質輸送
代表者:北海道大学・西岡 純

親潮を通じて、亜寒帯外洋から沿岸へ運ばれ、また沿岸から外洋へ運び出される栄養物質を定量化し、衛星データと統合することで、日本沿岸域から亜寒帯外洋の生物生産構造を理解する。

B02
黒潮・亜熱帯外洋域の栄養物質輸送
代表者:愛媛大学・郭 新宇

沿岸域と黒潮流域との間の双方向の淡水・栄養物質の輸送過程を解明し、外洋と陸域を起源とする栄養物質の沿岸域と黒潮流域における生物生産への寄与を定量的に評価する。

B03
沿岸 – 外洋間栄養物質フラックス推定
代表者:海洋研究開発機構・纐纈 慎也

外洋域の観測データに基づいた逆推定により、沿岸と外洋の間の淡水・栄養物質フラックスを定量化し、その変動の影響を解明する。

C班

C01
陸水による淡水・土砂・栄養物質流出
代表者:東京大学・山崎 大

陸域からの淡水・土砂・栄養物質の流出量を日本全域について推定するとともに、大量出水の外洋域および気候システムへの短期的・長期的な影響を評価する。